Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
叔父はまったく喋らないまま、クイッと顎で中に入れと示した。……それ、子ども相手にやる態度かな?
「お邪魔します」
とにかく、許可は得たので部屋に足を踏み入れた。テーブルにはイスが1つしかないし、机はもちろん無理だ。
「叔父様、ボクはどこへ座れば?」
叔父がトントン、と指先で叩いて示したのはテーブル。
なるほどね……とすぐに納得したぼくは、ニッコリ笑って「わかりました」と素直に従った。
背もたれのないシンプルな木製のスツールに腰かけ、テキストとノートを広げる。そのままぼくは、じっと叔父を待ち受けた。
「あれ……どこだったかな?」
鉛筆を持ちながら、わざとらしく困ったふりをして見せる。演技ってバレバレでも構わない。
すると、叔父は机の引き出しを開けて取り出したのはやたら分厚い紙。そこにかなりやわらかめの鉛筆で、ものすごいスピードで何やら書き出した。
(えっ……)
ずいぶん手早く書いたから絵か何かと考えたのだけど。叔父が黙って差し出したのは、開いたテキスト全ての解説。しかもわかりやすく正解に導く内容だった。
わずか5分もしないうちに……
「あ、ありがとう……ございます」
お礼を言っても軽く頷くだけで、やはり喋らない。ただ、ぼくを部屋の外に出すつもりはないようで、早く移せと無言の圧力を感じた。
(はいはい、すぐ書いて出ていきますからね)
課題を解き終えたぼくは、「ありがとうございました」と礼儀正しくお礼を言って叔父の部屋を出た。