Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
アーベルの家族は呆れるほどお人好しだ。
すぐに人を信じてしまうから、騙されやすい。
そのお陰で夫婦で一から築いた店を騙しとられ、借金まで背負わされている。
アーベル父は雇われ料理人として、かつての自分の店で薄給でこき使われている。
アーベル母は近所から借りた畑を耕し、とれた野菜を売って細々と暮らしている。
二人を騙したのは、この辺りに領を持つ貴族だ。私腹を肥やすことに熱心で、悪知恵だけはよく働く。どうせ働くなら自ら足を動かせよ。
(確か……この辺りの領主はフリートホーフ伯爵だったな)
ぼくが思案している間に、どうやら食事は終わったらしい。いつのまにかアーベル母は姿を消していた。おそらく、畑に行ったんだろう。
『で?なにか相談があるの?』
テーブルの上にはアーベル母が作ったらしい、スイートポテトとホットミルクが置いてあった。
『……ああ。かなりこみ入った話だし、もしかしたら君をとんでもない事態に巻き込むかもしれない。だから、聞いてどうするかは君次第だ』
『ずいぶん物騒な話みたいだね』
フォークを置いたアーベルは、テーブルの上で腕を組んだ。
『いち庶民の……しかも、子どもに過ぎないぼくが聞いていい話かな?』
『君だから、だよ』
ぼくは、アーベルにゆっくり頷いて見せた。