Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
『……というか。きみ、驚かないんだね』
『一応驚いてるさ。けど、いちいち感じたことを表に出さないようにしてるだけだよ。
僕の親が騙された話をしたろ?
お人好しは美徳だけど、あそこまでいくと行き過ぎだ。
店を盗られる以前だって、今まで存在すら知らなかった自称“遠縁の親戚”に泣きつかれて、借金の保証人になった揚げ句、夜逃げした本人に代わって借金のかたに自宅を奪われてたんだよ。
他にも枚挙にいとまが無い位さ。
つい先日だって、ボロを着た人間を泊めてもてなした揚げ句、母さんの唯一の宝飾品の結婚指輪が盗まれたんだ。
それでも“あの人がそれでしばらく食いつなげるなら良かった”って笑う、天然級のお人好しだよ。身ぐるみ剥がされたって文句を言わない……頭のネジが緩み過ぎた親がいれば、子どもの僕がしっかりするしかないだろ』
きっと、アーベルも今まで相当な鬱憤がたまっていたんだろう。立板に水のように話す彼は、不満を露わにする年相応の子どもで。
ぼくにそれだけ心を許してくれているんだ、と嬉しくなった。
『ふふ、きみも相当な苦労人なんだね』
『カールに言われたくない』
ふてくされた顔をするアーベルは、テーブルに突っ伏してぶつぶつ言う。
『……だからさ。僕は官僚になって上に行きたいんだ。親を楽にさせたいというより、迂闊に手が出せない人間になりたい。この国そのものを変えられるかはわからないけど。いずれ政治にも参加したいとは考えてる』