Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編

『え……婚約?』

アーベルの意図は一瞬で理解した。
公爵家嫡男のぼくと女王が婚約すれば、公爵家が女王の後ろ楯となる。
一応、オーベン公爵家は王妃を何度も輩出したことがある名門で、何代か前には王女が降嫁したので薄くとも王家の血も流れている。
だから王家との結びつきは元々強く、王配となるなら申し分はないだろうけど。

『……あのね、ぼくは8歳下。しかもお母様は日本人の平民。旧態依然した貴族議会が認めるはずないだろ』
『その答え方だと、議会が認めればいい、って聞こえるよ』

至極当然の反対理由を述べれば、アーベルはやたら言葉尻をとらえてくる。

『なんで君こそそんなにボクと女王陛下とをくっ付けたがるのさ?』

絶対あきれ顔になったぼくがそう言えば、アーベルはポリポリと頬を掻いてる。……んん? こいつ……なんか赤くないか?

常に冷静で自分を見失わない友達が、落ち着きなく頬を染めやけにこだわる相手……

ピン、と来たね。

『……アーベル、きみ、もしかしたら女王陛下が好きなの?』

そう指摘した瞬間、彼は耳まで一気に赤くなった。人間は一瞬であそこまで赤くなれるのを初めて知ったよ……。

『な……ななな何のことかな?ぼぼぼ……ボクハダレモスキジャナイヨ』

わかりやすいくらい動揺して、ぶわっと汗をかき挙動不審になる……あの秀才も、やっぱり男の子なんだって安心した。

そりゃ、アーベルはもうすぐ9歳だから。初恋のひとつくらいは可笑しくないんだよね。
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