Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
紅の出逢い
女王陛下に対する暗殺指令が出たーー
到底信じられないけど、ぼくの実家がそれに関わっているなんて。
“気取られぬために、今までと同じように振る舞え。勉強を見るという名目があれば週一の一時間程度は一緒にいても不自然ではないが、それ以外のやり取りする連絡方法を考えておく”
叔父さんに言われたことだけど……8歳の子ども二人だけで、どれだけ協力できるんだろう。
そりゃあ大人よりは警戒されないだろうけどさ……。
(叔父さんも自棄なのかな。あんなにあっさり極秘任務をぼくたちに明かしちゃって……そりゃ、信頼されるのは嬉しいけど)
グルンデシューレの教室の机で突っ伏していると、悪友の一人が声をかけてきた。
『よ、どうした?腹でも痛いのか?』
(おっと、いけない。ぼくは公爵家の嫡男……あんまりみっともない振舞いはできないんだった)
『いや、昨夜もチェーホフの短編集があまりにも面白くてね。徹夜してしまったよ』
一応、読んだことがある本を挙げて誤魔化してみた。ロシア文学に触れたことがあるアーベルなら、少なくとも感想を求めてくるだろうけど。
『チェー?なんだそれ。菓子の名前?』
親がよほど好きでもない限り、外国の文学への認識は一般の8歳児ならそんな程度だろう。そもそも、書店でもあまり並ばないのだし。
『あ、それよかさ!ビックニュースだぜ!おれたち王宮に見学に行けることになったんだ』
悪友から、思いもよらない知らせを受けて驚いた。