Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編

「無理ではないかしら?女王陛下は王宮に滅多にお越しにならないのだから」
「え……」

お母様から意外な話をされて、カトラリーを持つ手が止まった。

「どういうことですか?普通、国王陛下は王宮にいらっしゃるはずでは?」

当然の疑問をぶつけると、お母様は紅い液体が注がれたワイングラスを手にして、慣れた手つきでそれをひと口口に含む。ふう、と小さく息を吐いた。

「……陛下は……普段は北の離宮に住まわれていらっしゃるの」
「北の離宮……」

必死で王族の建築物に関する情報を思い出した。グルンデシューレに入学した時点で、王族貴族の情報は頭に叩き込まれている。そのなかにうっすらとあった記憶にあったものは……

北の離宮は築かれて既に百年は経っており、ここ数十年はろくに使われることなく、荒れるに任せた廃墟同然のみすぼらしい宮だった……というもの。

もともと、王族の罪を犯した人間や問題ある人間を幽閉するため作られた、いわば牢獄のようなもの。逃亡防止に断崖絶壁の難所に作られ、冬場は雪に覆われ夏でもろくに日が射さない肌寒い場所だ。
石造りの冷たい監獄に、なんの罪も犯してない現女王陛下が……?

「どういうことですか?女王陛下になにか重大な失策でも?」
「……いいえ。ただ、王太后陛下によると“体が弱い女王陛下の療養のため”だそうよ」
「……!!」

なんてことだ、と愕然とした。
実の母親である王太后陛下が……女王陛下にそこまでするとは。予想を遥かに越えた冷遇ぶり……どころか。これではまるで……娘の死を願っているとしか思えない‼



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