Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
「お母様……ぼくは……より大切なものができました」
「……そう」
お母様が食事の手を止めると、タイミングよく給仕係がこぼれた飲み物を拭いてくれた。この人も組織の構成員なんだろうと思うと、迂闊に喋れない。
にもかかわらず、お母様はワイングラスを手に口を開いた。
「……カール。あなたが大切なものを自分で見つけられたこと、嬉しく思いますよ。あなたの人生はあなた自身のものなのだから、自分が正しいと思った道を歩きなさい。なにも、オーベン家にこだわる必要はないわ」
「お母様……」
お母様から決断を認められた上に、まさか後押しされるなんて。さすが長年公爵家を仕切ってきただけあり、聡明で胆力があった。
「でも……」
(こんな重大な話を周りに聞かれていいのかな?)
ぼくの懸念は、お母様の浮かべた微笑みで霧散した。
「……カール、心配要らないわ。ここにいる者たちはわたくしの仲間だから。オーベン家に潜入する以前からの仲間よ。誰よりも信頼できる者たちよ」
ぺこり、と頭を下げた給仕係は、そう言えばぼくが小さな頃からお母様と一緒に見ることが多かったと記憶にある。
「……カール、わたくしたちは独自に動ける許可をいただいているの。だから、わたくしたちも水面下であなたに協力できる。何の非もない女王陛下をお助けしましょう」