Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
「……実際に見た方が早い」
「え?」
叔父さんは部屋にある電話機の受話器を持ち上げ、どこかに電話を始めた。2、3度それを繰り返すと、ぶっきらぼうに「行くぞ」とだけ言い、いきなり部屋を出た。
「え、ちょ……叔父さん!」
(相変わらず喋らなさすぎだろ! しかも、ぼくたちはまだ8歳と6歳の子どもだよ。察しろったって限界があるって!)
ぼくの内心の抗議などどこ吹く風で、叔父さんは何の説明もなくずんずんと歩いてく。しかもかなりの早足だから、歩幅が小さいぼくらなんて全力疾走しないと後を着いていけない。
着いたのはオーベン公爵家の裏手にある駐車場で、なんともレトロな外観の外国車が停めてあり、叔父さんはそのドアを開いて中へ入れと促した。
けど、マリアは警戒したのかそれに従わない。
「……どこへ行くおつもりですか?わたくしが行く必要などありますの?」
「ある」
叔父さんはキッパリと言い切った。
「真綿にくるまれ優しく守ってもらう立場で、頭でわかったつもりの情報や知識がどれだけ脆く頼りないものか、自分の目で……全身で感じ理解しろ」
「…………」
叔父さんの皮肉に思うところがあったのか、マリアはきつく睨み付けてから黙って後部座席に身を沈めた。
そして、慌てて乗り込んだぼくとアーベルが体を収めないうちに叔父さんは車を発進させるから 、二人とも後部座席で転がり回った。
そして、何時間もかけて到着したのは予想外の場所ーー北の離宮だった。