Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
「これに着替えろ」
叔父さんからそれぞれ紙袋を渡された時、ジロッとマリアに睨まれた。
「何をなさってらっしゃるの?レディが着替えるのですから、殿方はその場から遠慮なさるものではなくて?」
「え?」
よくわからなくて首を捻ると、アーベルに首根っこを掴まれ車外へ引きずり出された。
「……きみ、淑女に失礼だろ」
彼に本気で呆れたため息をつかれた……何なんだ、まったく。
寒風吹きすさぶ中、ぼくらは外で着替えた。震えながら観察してみると、北の離宮は話に違わない……いや、それ以上の酷さだった。
断崖絶壁に建てられた要塞のような武骨な外観は装飾要素が一切なく、灰色の石造りの壁はあちこちが崩れ蔦に覆われている。周りの雑草も伸び放題で、道らしい道もない。廃虚と呼んでも差し支えない、ひどい状態だった。
おまけに、緯度が高いせいで肌寒いどころか荒れ狂う風が痛いし冷たい。崩れた壁から生えた木が折れるほど揺れてた。
それにしても、まったく人気(ひとけ)がない。
普通、貴族の館や別邸にしろ。敷地内に入れば少なくとも警備や何かしら関係者が居そうなものだが。
離宮の敷地内に入る時もぐるりと囲まれた塀の門を通ってきたけど、そこにすら門番が居なかった。
まさか、と思う。
「……本当に、こんな場所に女王陛下が?」
「自分の目で確かめてみろ」
ぼくの当然な疑問は、叔父さんのひと言に斬られた。