Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
『……あんたたちが、新しい手伝いかい?』
『はい。オレは警備の交代で、この子たちは孤児院から来ました。なんでも申し付けてください』
叔父さんに連れて来られたのは、離宮の厨房らしき炊事場だった。
100年前に建てられたものだから、電気もガスも水道もないのは当然で、竃(かまど)で煮炊きをしている様子。
ただ、オーブンらしき器具はどれだけ使われていないのか、錆びてクモの巣すら張っている。
『ちょうどいい。一人は薪を割って持ってきておくれ。一人は井戸から甕(かめ)が一杯になるまで水を汲んできな。あと、あんたは炊事の手伝いだよ。あんたはすぐ警備のとこいって交代してきな』
60をかなり過ぎているだろう白髪のおばあさんにテキパキ指示され、慌てて作業に取り掛かる……というか。
「……なんでボクが水汲みなんだ?」
「じゃあ、薪割りはしたことある?僕は父さんの手伝いで慣れっこだけどさ」
アーベルににこやかに言われ、黙って木のバケツを持ち上げた。
(はいはい、どうせぼくはまだまだ経験不足ですよ)
井戸は炊事場から近いからまだましだったけど、かなりの重労働だった。こんなことをあのおばあさんは毎日一人でこなしているんだろうか?こんな広い離宮なのに……往復している間も、人っ子一人見ないのはさすがにおかしい。
『ねえ、このお城は広いのに、おばあさんと警備の人しかいないの?』
無邪気なふりしておばあさんに訊ねてみたけど、ハッと鼻で笑われた。
『なに世迷いごと言ってんだい。ここはね、罪人を置く牢獄だよ。お城なんて高貴なもんかね』