Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
まさか……と思いたかった。
国家元首で国の代表者……身分も地位も最高であるべき人が、こんなひどい場所にいてこんな扱いを受けているなんて。
「……叔父さん」
「……」
「……女王陛下……じゃないよね?ウソでしょ?ほんとはもっといい部屋にいらっしゃるはず……だよね?」
ぼくはすがるように叔父さんを見上げた。見慣れない軍服姿の叔父さんは、微動だにせず断言した。
「あれは、間違いなくこの国のミルコ女王だ」
「……!!」
錆びた鉄格子を両手で掴んで、彼女をもう一度見た。
あの日輝いていた白銀の髪も短くされ、バサバサで薄汚れてる。骨と皮まで痩せ衰えた体……熱があるのか異様に赤い肌はガサガサだ。体を覆うのが、膝下も覆わない薄手のシャツ1枚で、垢まみれで擦りきれ破れもある。靴すら履いてない。
「叔父さん、牢の鍵は!」
「あの老婆が管理している」
それを聴いた瞬間、ぼくはすぐに引き返し猛スピードで炊事場へ戻った。おばあさんは違うものを作っていて、それはとてもいい薫りがするあたたかいスープだ。
近くにはベーコンやチーズに卵、ドイツパンや新鮮な野菜果物が用意されてる。
(自分達だけこんないいものを食べて……!)
頭にカッと血が昇りかけたけど、感情に任せてもろくなことにはならない。冷静になれ、と自分に言い聞かせ落ち着いたころ、おばあさんに切り出した。
『あのさ、ついでに排せつ物の処理もしたいんだ。牢屋の鍵を貸してもらっていいかな?』
『……これから食事って時に、嫌な話をしないどくれ!』
いかにも嫌そうな顔をしたおばあさんは、捨てるように鍵を投げて寄越した。