Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
『叔父さん……なんてことを……ッ!!』
ぼくは怒りのあまり叔父さんに掴みかかろうとしたけれども……叔父さんのあまりの迫力に一歩も踏み出せず、それ以上言葉も出せなかった。
明人叔父さんはまるで親の敵でも見るように、女王陛下を睨み付けていた。
紅い瞳は炎を宿したように燃えていて、薄暗がりで光って見える。全身から発するのは、怒りよりも強い感情。爆発しそうなエネルギーを必死に抑えているように見えた。
『自分の命を、他人任せにするな。自分の責任でどうにかしろ。死にたければ勝手に死ね。だが、生きる努力もせず無責任に死に逃げる者に、安らぎなど訪れん。アンタは、一度でも抗ったことはあるのか?自分の意思でなにかを決め生きようともがいたことはあるのか?
生き抜こうとした者だけが、死という選択ができる。死に、甘えるな!!』
それは、まだ幼すぎたぼくには全く理解不能な叱責だった。
いくら知識を蓄えようが、血筋で差別されようが、所詮真の苦労を知らない8歳の貴族の息子に過ぎないぼくに、叔父さんの言葉の意味が理解できるはずもなく。
ただ、一方的にひどいと反発心が頭をもたげたけれど。
突っかかろうとしたぼくを制したのが、アーベルだった。
『……見ててあげなよ。あれは、僕たちでは理解できない彼なりのやり方なんだろう』
やはり、苦学生の彼はうっすらと叔父さんの意図が理解していたようで。マリアにも邪魔しないように、と言っていた。