Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
『……っ』
女王陛下の口から、微かに声が漏れた。
『……っ……など』
荒い呼吸の合間に、喘ぐように必死に口を開いた。
『……逃げて……など……いない!』
『いや、アンタは逃げようとしてるだけだ!現実がつらいなら、抗え。生きるために努力しろ!それでもどうにもならないなら……』
一呼吸置いて、叔父さんはキッパリ断言した。
『オレが、アンタを殺してやる……』
もはや、絶句するしかなかった。
どうしたらそうなるのか、当時のぼくには理解不可能。アーベルさえ、は?という顔をしていた。
生きろ、というならわかる。けれど、殺してやるの流れの意味がわからない。
なのに、女王陛下は両手を顔から離して叔父さんに目を向けた。
『……本当に?』
『ああ。オレが責任を持ってアンタの命を預かってやる。だから……一先ず生きろ。自分の限界を自分で勝手に決めるな。まずは、自分を追い込んだやつらに対する仕返しでも考えておけ』
『仕返し……』
女王陛下はそう呟くと……
信じられないことに、その口もとに微笑みが浮かんだ。
『……考えた、こともなかった……』
『考えたことがないなら、これから考えればいい。したことがないなら、とりあえずやってみろ。ムダになるかは後からわかればいいだけだ』
叔父さんの厳しい態度は、女王陛下を救うものだった。
こうして、紅の瞳を持つ者二人は出逢ったんだ。