Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
ぼくも、オーベン公爵の正式な後継ぎと認められていた訳ではない。
ぼくの母はグレースで宝石について勉強していた日本人の留学生で、祖国でもただの庶民。父のユリウスがごり押しで結婚までこぎ着けたが、特に父の弟であるヨーゼフの反発がすさまじく、侯爵令嬢を母に持つ娘のマリアの方が後継ぎに相応しい、と喧伝して憚らなかった。
本家の家でも恵まれてはいない。父に隠れてメイドにいじめられ、バトラーに意地悪されるなんて日常茶飯事だった。
ただ、連中には予想外だったろうけれども。ぼくの母は本当は身分を偽っていた。
留学生というのはあくまでも仮の姿。本当はとある組織のエージェントで、心身ともにめっぽう強い人だった。
だから、ぼくも母から(というよりおかんと呼びたい)、様々な訓練を幼少より受けていた。だから、低俗な嫌がらせなど泣くより逆に利用してやつらを泣かせてやったけどね。
本来なら母はユリウスにハニートラップを仕掛けて自滅に追い込むはずが、父は母に本気で惚れて改心してしまったから……真摯な愛に触れた母は父にほだされた……という訳で。
まあ、組織もそれならばオーベン公爵家をグレース王国での活動拠点(ベース)にするという条件で渋々認めたという経緯があったんだよね。
で、ぼくの母の兄ーーアキトがまさか、ミルコ女王と惹かれあうなんて。誰が想像したんだろう。