Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編

女王陛下は顔を青くして全身を震わせていた。居たたまれなくなったぼくは、叔父さんに食ってかかった。

『叔父さん!いくらなんでもそれは不敬過ぎるよ!!』
『あいにく、オレはこの国の民ではない』
『そ~ゆうことじゃないでしょ!』

ああもう!と頭をかきむしりたくなった。本人の前だから、言えないけど。
あんな女でも、女王陛下には唯一無二の母親。2年前だって、家族の情に飢えているように見えた。

彼女にとって、切り離せるものではないはず……。

『……ありがとう』

女王陛下の口から、掠れた声が聞こえた。

『“弟”として、わたしを庇ってくれたのね……』

女王陛下はそう言うと、ゆっくり顔を上げてぼくに向けて微かに笑みを浮かべた。

(憶えていらっしゃったんだ……)

2年前の、他愛ない会話。きっと忘れているだろうと思ってたのに……女王陛下は、約束を憶えてらしたんだ。

女王陛下の微笑みは一瞬だったけれど、ドクン、と心臓が跳ねた。
そして、かあっと顔が熱くなり、どくどくと全身に熱い血が巡るように感じた。

(な……なんだ、これ?意味がわからないよ……ボク、どうしたんだろう?心臓病?)

『は……はい。“弟”として当たり前です!姉はボクが護ります』
『まあ……頼もしいわ』

クス、と女王陛下が口元で小さく笑っただけで、頭に血がのぼったように真っ白になる。何も考えられないし、自分の足元がふわふわした不確かなものの上に立っているような心地だった。

一体、自分がどうなったのか?
結局、知識はあったとしても未熟なぼくにはわからなかった。

女王陛下に恋をしたーーなどと。


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