Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
(えっ……)
王太后のすぐそばに、プラチナブロンドの美丈夫がいたのだけれど……。
その風貌は、ゲオルグ王太子殿下にあまりに瓜二つで。一瞬頭の中が混乱してしまった。
(……あれは、誰?……あんな人……王宮の関係者にいなかったはず……!)
お母様からは厳しいくらいの教育をされてきたぼくは、宮廷関係者や王族貴族の容姿やデータを徹底的に頭に叩き込まれた。それこそ不要と思われるパーソナルデータまで。
しかし……そのぼくでさえ、王太子殿下に酷似した男の存在は知らなかった。
(動揺するな……!とにかく今は、情報を集めなければ)
ゲオルグ王太子殿下はぼくたちの存在を悟られないように、と遠い場所に誘導しようとしてくださっている。息をひそめ気配を殺しながら、慎重に様子を探っていると。王太后がそばにいる美丈夫に無邪気に訊ねた。
『……ねえ、お兄様。あんな醜い汚らわしい獣……いなくなってよかったわ。ゲオルグだけがわたくしたちの美しい天使ですもの。ねえ、そうでしょ?』
『そうだね、シャルロッテ。美しい君にあんな野蛮な獣は似合わなかった……君が拒んだのに、化け物を生ませたのだからね。あんな醜いものは、君の子どもではない。私“たち”のゲオルグだけが、真にこの国を……世界を統べるべきなのだよ』
優しげな笑みで恐ろしいことを告げるその男こそーーシャルロッテ王太后の実の兄であるフランツと、後で知った。