Gypsophila(カスミ草)~フラれ女子番外編
そして、現在(いま)の彼へ。
王宮見学では色んな収穫があったけれど……それ以上にショックな現実を知ってしまった。
「……そう、あなたも見たのね。王太后とその兄を」
その夜お母様に報告をした際、随分あっさりした反応で拍子抜けしたけど。それはとりもなおさず、お母様がすでに知っていらしたということで。ぼくは訊かずにはいられなかった。
「このことは、宮廷のみなさんがご存じなのですか?」
「いわゆる、“公然の秘密”ね。王太后に直に接見できるのは、伯爵夫人以上の身分がないと無理ですもの。王太后はどんなに高位の男性でも直には会わないわ。彼女の“男嫌い”は相当昔から有名だったみたいね」
“男嫌い”ーー。
(なら、なぜ実の兄をそばに置いているんだろう?それに、それが周知の事実ならば。どうしてわざわざ王妃に?)
先代のクリストフ陛下は穏やかな優しい人だったと聞いてる。ぼくは写真で拝見しただけだけど、気弱などこにでも居そうな、素朴な青年というふうに見えた。そんな彼が、強引に妃にしたとは考えられない。正式な手順で妃に迎えたはず……なのに、なぜ?
シャルロッテ王太后は、かつての夫を“汚らわしい獣”呼ばわりするほど嫌うのか。
ミルコ女王は、彼との実の子だから?だからあんなふうに嫌い憎むのだろうか……?
なら、ゲオルグ王太子殿下は。
クリストフ陛下と全く似たところがない彼は?
一体誰との子どもなのか。
ぼくの嫌な予感が当たらなければいい。そう思うのに、お母様は無言で首を縦に振った。そして、こうも付け加えた。
「王太子殿下はおそらくとうにお気づきよ……ご自身が先代の御子でないことは」
そうか、とさらに納得した。
王太子殿下が“跡継ぎは作らない”と宣言した真意が。
彼は……自分が直系の王族の血を引いてないから、相応しくないととうに知っていらしたんだ。だから、ああいった結論を出したのだろう。