【番外編】ロマンスフルネス

「恐れ入ります」


「家内も毎年この時を楽しみにしているんだ。何でも、君の姿を観賞すると肌にハリが出るとか。」


「気のせいでしょう。こちらの料理がお体に合うのでは。」


「ははは、舞台を降りるとやはり君だな。出来れば年に一度と言わず、四季折々の舞台を見せて欲しいものだ」


大きな声で笑う男性は、そつのない返事を返す夏雪に少しずつ近づいていく。



「ご期待はありがたいですが、私は能楽の専門ではございませんので。」


「そうだったな。失礼、真嶋家は美しいだけの家畜に過ぎんのだと忘れていたよ」


ははは、と高笑いする声が響く。


家畜?今この人家畜って言った!?


言葉の意図を理解するにつれ胃がカッと熱くなって、気がつけば澪音さんに腕を掴まれている。



「待って待って、どこ行こうとしてるの透子さん」


「あいつ…ひとこと言ってやらないと!」


「だとしても、透子さんが出ていったら話がややこしくなるでしょ」


「だって、夏雪、今はHP1なんですよね!?あんなジジイに攻撃されたら…!」



丁寧な言葉使いは見る影もなくなった私を、澪音さんが「落ち着いて」と静かな声でなだめる。


「大丈夫、ああいう手合いのあしらいには慣れてるよ。瀕死だとしてもナツの敵じゃない。」


そうだろうか。澪音さんは呑気そうにしてるけど、夏雪はあくまで上品に、にっこりと微笑んでいるだけ。
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