【番外編】ロマンスフルネス
「君は所詮、樫月グループの威信を誇示するための孔雀なのだよ。無能な家畜は家畜らしく、その姿を活用することだけ考えていればよろしい。
本来なら財閥の運営に口を挟める血筋ではないのだ。監査部など辞退したらどうだ?」
「残念ながら、血筋にこだわっていられるほど樫月グループも人材に余裕が無いのですよ。」
「いけしゃあしゃあとよく言ったものだ。君のポストはどうせ当主に尻尾を降って手に入れたんだろ?」
「意味がわかりません」
「君は知らないのか…。近頃は当主と君の不適切な関係すら噂されているようだが。
火のないところに煙は立たずと言うからな、ほどほとにしたまえよ。」
なんっって奴なの!
あまりのひどい侮辱に着物の袖を握り閉めると、「クスッ」と冷たい笑い声が聞こえた。
「あなたが経営する部門の退職者から、人事評価への不満の声が上がっているそうですね。
確かに酷いものです。差別主義に、品位のない邪推。経営者がこれでは人材が流出するのも無理ないかと」
「なんだとっ?」
「ちょうど、退職率の上昇理由を調査していたところです。ヒアリングでは経営者としての目に余る態度が何度も報告されましたよ。近々、監査部から正式に査問会議への召集がかかるでしょう」
「査問会…」
おじさんの嫌味っぽい笑顔が抜け落ちる。
「待ってくれ、それは困る。監査部は君の権限で動かせるだろう、何とか穏便な方法を…」
「いえ、業務上の決定ですから」
「君も私と同じ、樫月に連なる血統だろう?血縁の力を削いでどうするんだ。
君はもう真嶋家としては異常なほど出世したじゃないか。同じ血縁者を蹴落とすようなマネは…」
追い縋ろうとする手を夏雪が扇で払いのける。口の端をつり上げて、薄い三日月のような笑顔を浮かべていた。
「同じ血縁?私を家畜と仰っていませんでしたっけ?」
「いや、あの、それはだね。君をそう言ったつもりは…」
「所詮あなたは無能な家畜に蹴落とされる程度と、身の程を知ると良いでしょう。査問会議でまたお目にかかります」
夏雪は、顔面蒼白で立ち竦むおじさんをかえりみることなくスタスタ歩いて行った。