【番外編】ロマンスフルネス
鏡台に映る自分が着ている着物とその布地を見比べると、どう見てもまったく同じ。


「……!?」


「ふふっ、どうやら気付いてもいなかったようですね。おそらく透子も俺も、当主に一杯食わされたんでしょう。」


夏雪は笑って、聞かなくても分かってるといった風情だった。


「それにしても…今回は一番恐ろしい相手に接触しましたね」


「澪音さんのこと?
そんなこと無かったよ。話してみると気さくなお兄さんって感じで、すごい好い人で」


「気さくなお兄さん、ですか」


夏雪がメイクの上からでもわかる仏頂面になったので、澪音さんからのプレゼントを手渡す。クッションくらいの大きさの、ふかふかのおーくんぬいぐるみである。


「夏雪のこともすごく心配してたんだよ。これは笛が上達したご褒美なんだって」


「……嫌がらせの間違いじゃないですか?」


夏雪はぬいぐるみを不審そうな顔で一瞥し、そのまま鏡台に置いてしまった。


「まあ私も正直、何でおーくんなのかなとは思ったんだけどね…」


夏雪にほっとかれたおーくんが不憫になり、鬼の能面を被せて遊んでみる。うん、だめだ…鬼の顔がリアルすぎて怖い。


「悪趣味」


鏡に苦笑する夏雪の顔が映る。鏡越しに目が合うと照れ臭くて、くるっと後ろを振り返った。
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