【番外編】ロマンスフルネス
「透子、あなたは俺のものです。」
その言葉が、もう誤魔化せないくらいに私を幸せで満たす。声を出さないと、どうにかなってしまいそうだった。
「…うん」
返事とともに一筋の涙が溢れたから夏雪が驚いてるみたいだ。顎に触れていた手が頬を滑り、涙を拭ってくれる。
「怖いですか?」
「そうじゃなくて。嬉しいの」
「あなたという人は…」
今度はもっと強く夏雪にぎゅっとされる。深く息をはく音が聞こえて、胸が切なく締め付けられた。
「誓いを…頂いてもいいですか」
「誓いって?」
「透子を逃がさないための儀式ですよ」
夏雪は小さな盃にお酒を満たす。儀式…ということは、これは結婚式の御神酒のようなものだろうか。
けれど想像していた一連の所作を裏切るように、後ろから私を抱き締めた夏雪が唇に盃をあてがった。
「…このまま飲むの?」
「ゆっくり、少しずつでいいですよ」
夏雪の親指に唇を押し広げられ、華やかな香りが口の中に流れ込んでくる。
「…んっ」
何か神聖な誓約を交わしているような、それでいて後ろめたい隠し事のような、不思議な感覚におそわれる。
「夏雪も飲んで…」
「はい、勿論」
夏雪が顎に唇をつける。溢れた雫を舐めているのか首筋にまで舌が伝い、こらえきれずにびくんと肩が震えた。
「甘いですね」
「溢したのじゃなくて…っ」
「では、あなたを」
華やかなお酒の甘さともに唇が溶け、お酒を飲んだ時よりも頭がクラクラした。誓いを立てているのに、少しも神聖じゃないキス。淡く焦らされて、もう夏雪に食べられてる。
「っ…」
「そんな目で見ても、逃がしてあげませんよ」
乱れた息を整えたいのに、熱を帯びた夏雪の瞳のせいで、胸がせわしなく上下するばかりだった。けれど締め付ける帯を解かれても、鼓動がさらに切なくなる。
「あんまり、…見な…っ」
「だめですよ。もう俺のものだと言ったでしょう」
着物の内側を滑る手に何度となく体を震わせてしまう。夏雪に強引に求められると、いつの間にか甘さが溢れて逆らえなくなっていた。
「透子、目を…閉じないで」
「…っ…で、も」
「俺の目を見ていなさい」
夏雪の下す命令に、身体が、私の全てが甘く塗り替えられていく。