【番外編】ロマンスフルネス
「わ」
崩れた体勢を抱えられ、彼の腕の中に閉じ込められる。夏雪は私の肩のあたりに顔を埋めていた。もしかして、甘えてるのかな…?
夏雪は顔をあげて頬と頬を合わせ、同じようにお互いの額や、鼻筋を触れ合わせる。
甘えられるにしてもドキドキしてもどかしいスキンシップ。ずっと間近で見つめられるのが恥ずかしくなって、つい顔を伏せた。
「透子、逃げないで」
「だって…何でこんなふうに…ずっと
キス、してくれないの…?」
引き寄せられる力が強くなり、首筋に吐息がかかる。
「今だけは禁忌なんです。困ったことに」
「え…?」
禁忌。
えーっと、つまり。お肉やお酒が禁じられるように、恋人同士のスキンシップもNGってことだ。身を浄める期間と言われていたのに、今の今まで気付かなかった。
やだもう、私ったら似合いもしないのに「キスして」的なこと言っちゃってたじゃん!全力で取り消したいんだけど。
「禁忌ね!そうかぁ、なぁるほど!」
誤魔化すために元気よく返事をしてみる。照れ隠しに腕から抜け出そうとしたら、やんわりと阻止されてしまった。夏雪は焦れたように眉根を寄せて、その瞳はいつもより甘やかに見える。
「透子に会うと辛いと分かってたんですけど、会えないのは余計に辛くて」
「…うん」
「ただ、透子の残念そうな顔が見れたのは予想外の収穫ですね」
内心を見透かすような微笑みに顔がかぁっと熱くなる。
「な、な、別に残念そうにしてなんか」
「ないですか?」
「なくも…ないけど…」
結局、夏雪に甘えるように問いかけられれば、嘘がつけない体質なのだ。真っ赤な顔を伏せることもできずに、意地悪な質問に答えてしまう。
「でも…今こうしてるのは…」
「本来は禁じられてる領分でしょうね。けれど、愛する人を抱き締められもしないのに、心を浄めろというのは無理な話だと思いませんか?」
夏雪は照れることもなく。私ばかりドキドキしたり顔を熱くさせたり、落ち着かない。
「もうしばらく、このままで。
まだあなたを離したくない」
「うん…」
夏雪の腕の中、せつなくて幸せなため息をついた。