【番外編】ロマンスフルネス
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「インビテーションって何だろ…?」
自宅に届いた重厚感のある銀の封筒。その裏面に書かれた送り主を見て、呼吸が止まった。
樫月 澪音
「この人…あのコンサートのピアニストの…!ってつまり樫月グループの当主!!」
なんでそんな天上人が私なんかに手紙を?
中を見ると美しい紙面に書かれた案内で、これが「寒月祭」というイベントのお誘いであることがわかる。もしかしてこれは…夏雪がすごく嫌がっていた恒例行事なのでは?
「夏雪は来て欲しくないって言ってたけど…」
夏雪の上司(?)のお誘いを無下に断るのもどうかと思うし、戸惑いながら中身をめくる。すると、直筆で書かれたメッセージが目に止まった。
『ナツを助けるために手を貸して下さい。ナツには内密に』
どういうことだろう?
…分からないけど、彼を助けてと言われたら、いつでも私の答えはひとつだけ。
「わたくし矢野透子、謹んで参上させて頂きます!」
メッセージに敬礼して、気合い十分でその日を迎えた。
招待状された場所は鎌倉の郊外で、案内された先で何故か着物を着せて頂いた。
美しい緋色の着物に華やかな帯飾り。髪は低い位置でまとめて銀の簪を挿す都会的な仕上がりに、自己満足の「おぉ~」という間抜けな感想を漏らす。
前に振袖を着た時には、夏雪に「七五三ですか」とからかわれたけど、今回はあの時よりしっくりきている気がする。あくまでも自分比だけど。
その後広い和風庭園に通して頂き、そこには能舞台を中心とした幽玄の景色が広がっていた。篝火が夕闇を照らし、冬の静かな空を彩っている。中には既に多くの和服姿の人たちが集まっているようだ。
開放的な和風建築で優雅に談笑している様子は、さながら歴史の中の貴族たちのよう。私が案内されたのはその中心から外れ、さらに渡り廊下を進んだ先の小さな庵だった。
木製のベンチに囲いと屋根を付け足したような簡素な庵。寒そうに見えたけれど、中に入ると火鉢が置いてあって暖かい。
二人分の暖かなお茶まで用意されているので、もしかしてここに夏雪が来るのかな?とドキドキする。