π to Σ
内緒の片思いが一ヶ月ほど続いた。


教科書を読む、落ち着いた声が好きだった。

男子たちにからかわれて、赤くなる先生が好きだった。

チョークをかるく握った、細くて長い指先も好きだった。

身長はあんまり高くないけど、ださいメガネの奥に隠れてる、優しい笑顔が好きだった。





その日も先生は、授業が終わるなり生徒たちに囲まれた。

私が誰に話さないでも、若くて明るい先生は、いつの間にか、みんなの人気者になっていた。

運命の相手だと思った先生が、遠くの存在になってしまった気持ちがしていた。

「りょーちんさぁ、彼女いないのぉ?」

後片付けをする先生に、ネグセをからかいながら、同じ友達グループの直実が聞いた。

「髪の毛めっちゃハネてるし」

私は、その後ろで、息をひそめて答えを待ってた。







――先生に、彼女?







馬鹿みたいだけど、それまで考えもしなかった。

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