雨は君に降り注ぐ

 一瞬、思考停止。
 色々なことが、頭の中を忙しく駆け巡る。

 今、なんて言った?

「く、工藤くん、今のは……。」

 私がそう言った途端、工藤くんの表情がふっとゆるんだ。
 爽やかすぎる、笑顔。

 私の顔が、徐々に熱を持っていく。

「俺さ。」

 工藤くんが、爽やかの声で言う。
 愛おしそうに、私を見つめながら。

「結希ちゃんのことが、好きなんだ。」

 ダメ。

 今、私の顔を見ないで。
 耳の端まで真っ赤だから。

「好きなんだよ。」

 工藤くんは、繰り返して言う。

「工藤くん…。」

 どうしよう。
 なんて答えたら正解なの?

 工藤くんは、私のことが好き。
 私は、

「私は、」

 一ノ瀬先輩のことが好き。

 ダメだよ、工藤くん。
 私なんかを好きになっちゃ、絶対ダメだ。

 さっきだって、工藤くんに声をかけられるまで、私は、一ノ瀬先輩のことを考えてた。
 私は、工藤くんの期待に、応えられないよ…。

 断ろう。

 ごめんなさいって、言うんだ。
 でも、

 私は、夕方、自分で考えていたことを、思い出した。

『たまに思うこと。
 工藤くんも涼介先輩も、冷たい人だな、と。

 告白してくる女子たちが、どれだけの勇気を持って気持ちを伝えに来ている
 か、 考えたことがあるんだろうか。』

 そうだ。

 工藤くんは一体、どれだけの勇気を持って、この場にいるんだろう。
 どれだけの勇気で、私に思いを伝えたんだろう。

 今、私が断ったら、工藤くんは一体、どのくらい傷つくんだろう。
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