雨は君に降り注ぐ

 少し、沈んだ気持ちで、更衣室へ向かう。
 きっと、それが顔にも出ていたんだろう。

「吉岡さん、平気?顔色悪いよ?」

 そう、新川先輩に声をかけられた。

「えっ?」

 突然のことに、声がうわずった。

 新川先輩は、すっかり着替えを終えて、今、更衣室から出て来たばかりのようだった。
 その顔は、表向きは、私を心配しているように見える。

 そう、表向きは。

「いえ、大丈夫です。なんでもないですよ。」

 そう言って、私は足早にその場を去る。
 新川先輩の視線を、背中に感じる。

 やっぱり、違う。
 新川先輩の視線と、黒フードの人物の視線は、全く違うものだ。

 それでも、新川先輩の視線からは、何か嫌なものを感じる。

 私は、逃げるように女子更衣室に飛び込んだ。

 と、高井先輩の姿が、目に飛び込む。
 彼女は、呆然としたように、ロッカーの前に立ち尽くしていた。

 どうしよう。
 高井先輩と、2人きりになってしまった。

 私はまだ、高井先輩と、まともに言葉を交わしたことがない。

 高井先輩は、だいぶ、ぶりっ子気質なところがある。
 上目遣いを連発させるところとか、甘えた声を発射させるところとか。

 これは偏見だ。
 そうは分かっているものの、私は明らかに、高井先輩に苦手意識を抱いていた。

 なるべく、関わりたくない。

 そう思い、できる限り避け続けてきたので、2人きりになった時、ものすごく気まずい。
 今が、まさにそうだ。
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