雨は君に降り注ぐ

「…ねえ、誰?あのハンサム。」

 スマホを受け取った後、しばらく呆けたまま突っ立っていた私は、理子に声をかけられて、やっと我に返った。

「…え?」

 理子は、怪訝そうにこちらを見ている。

「今のハンサムくんよ。誰?結希の知り合い?」
「いや……。全然知らない人。」
「そうなの?…でもい~な~、あんなイケメンに声かけられるなんて~。」

 うちもスマホ落とせばよかった~っと、理子は楽しそうにはしゃいでいる。

 理子は、いわゆるメンクイだ。

 以前、成り行きで、理子と恋バナをしたことがある。
 理子から、今まで誰とも付き合ったことがない、と聞いた時、私は思わず、

「嘘っ!」

 と、叫んでしまった。

 そして、これもまた思わず、

「こんなに男ウケしそうな顔なのに…。」

 と言ってしまいそうになり、喉の前あたりで、ギリギリ飲み込んだ。

 『男ウケしそうな顔』というのは、決して悪口ではない。
 もちろん、バカにしているわけでもない。
 とにかく、それくらい意外だったのだ。

 聞くところによると、理子は、とんでもなく理想が高いらしい。

「顔は、アイドルレベルのものじゃないとダメ。声は透き通っていて、髪はサラサラで、身長は高くって、体格もよくって。あ、でも、筋肉は付きすぎているのは嫌かな。こう、スラ~ってしてる感じ。性格は、とにかく優しいひと。大人っぽくって、爽やかで、私だけを求めてくれて、清潔感があって、それからそれから……」

 …そんな完璧人間、どこにいるんだ?

 とは言わなかったけど、もったいないな、と思った。

 理子は、付き合った経験こそないが、とにかくモテる。

「告白された回数?う~ん、詳しくは覚えてないけど、……ざっと、少なくとも、30回ぐらい?」

 しかし、ただ『タイプじゃない』という理由だけで、ことごとく断ってきたそうだ。
 ……なんて贅沢な。

 私なんて、生まれてこの方、告白された経験なんて1度もない。

「あ~でもな~、あのハンサムくん、声がタイプじゃないんだよな~。」

 理子は、まだはしゃいでいる。

 確かに、さっきの人の声は、少し低かった。
 理子の言う、いわゆる透き通った声とは、少し違うものかもしれない。

 …って、いや、そんな細かいところまで気にしていたら、理子には一生、彼氏というものができないんじゃないか?

 まあ、そういう一切妥協を許さないところも、理子の魅力の1つだと思うな。
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