雨は君に降り注ぐ

「じゃあ、友達?」
「そんな感じです。」

 そう答えすと、その男の子は、安心したようにため息をついた。

「そっかあー、よかった。一ノ瀬の奴、二股かけてんのかと思っちゃった。」

 二股?

「それってどういう…。」
「ああ、俺、一ノ瀬とは高校も一緒だったんだ。まあ、たいして親しくなかったけど。その時に、彼女を紹介されたことがあってさ。」

 なんで俺に紹介したんだろうな?と、彼は楽しそうに言う。
 でも、もはや彼の声は、私に届いてはいなかった。

 彼女が、いる?

 一ノ瀬先輩には、彼女がいる。
 突きつけられたその事実が、私の心の、奥深くをえぐった。

「あの、ちなみに、その人。その彼女さん、どんな人か分かりますか?」
「あんま覚えてないんだよな…。確か名前は、ミズキ、だったかな。名字は、斉藤だったか江藤だったか。」

 そっか。
 彼女がいるのか。

 一ノ瀬先輩には、もうすでに、愛する人がいるんだ。

 当然だ。
 あんなに優しくて、かっこいいんだもの。

 私なんかが、

「っ…。」

 私なんかが、一ノ瀬先輩と、釣り合うわけがないじゃないか。
 最初から、そんな可能性なんて、少しも無かったんだから。

 それなのに、変な期待をして、バカみたいじゃないか。

 ああ。
 私、また泣いてる。

「え、ちょっと、君、大丈夫?」

 目の前の彼が、心配そうに、私の顔をのぞき込もうとする。

 こんな顔、見られたくない。
 涙でぐしょぐしょだ。

「すみませんっ、大丈夫です!」

 私は、吐き捨てるようにそう言うと、走ってその場を去った。
 今は、1人になりたかった。

 元陸上部の私の足は、相当速かった。

 だから、彼がその直後に、

「でもそういえば、最近、一ノ瀬、今は誰とも付き合ってないって言ってたっけ。」

と呟いていたことなど、知るよしもなかった。
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