雨は君に降り注ぐ

「嘘、なんで、ここに…?」

 新川先輩の、驚愕したような声が聞こえる。
 実際、驚いていたんだと思う。

 腕をつかまれた女子は、顔を真っ青にして、唇を震わせている。
 理子を羽交い絞めにしていた女子2人は、力なくその腕を放した。

「新川。」

 女子の腕をつかんだまま、その人はこちらを振り向き、静かに言った。

「俺、怒ってるんだけど?」

 その声は、普段のその人からは想像できないほど、暗くて低い声だった。
 いつものキラースマイルはどこに行ったのか…。

「どういうつもり?」
「そ、それは、その…。」

 先ほどの新川先輩とはまるで別人に思えるほど、今の新川先輩は、たじろいでいた。
 声を震わせ、うつむき、言い訳を探しているように見えた。

「ちなみに俺、映像撮っておいたから。」
「映像…?」

 理子が、不思議そうに訊ねる。

「そ。新川が、いじめが楽しい、って言ったあたりから、カメラ回してる。今の暴力シーンもばっちりだよ。」

 彼は、つかんでいた女子の腕を放すと、私と新川先輩の方へ、無言で近づいてきた。

「彼女から離れて。この動画、ばらまかれたくないでしょ?」

 そう言って、新川先輩のことをにらみつける。

 新川先輩は、私を押さえつけていた腕を、ゆっくり放した。
 そして、うつむいたまま立ち上がり、彼と目を合わせる。

「わ、私…。」
「今後、こういう事は一切やらないと約束して。彼女たちに危害を加えないで。俺の、大切な後輩たちだ。」

 彼の言葉には、有無を言わせない圧、みたいなものがあった。
 新川先輩は、それきり黙ってしまった。

 こんな人だったっけ、涼介先輩って…。
< 147 / 232 >

この作品をシェア

pagetop