雨は君に降り注ぐ

 新川先輩の去り行く背中を見届けてから、涼介先輩は、私に目を合わせた。

「…けがはなかった?」

 その目にも、声にも、先ほどまでのトゲは感じられなかった。
 整った顔から発せられるキラースマイルは、相変わらずの破壊力がある。

 …いつもの涼介先輩だ。

「はい、大丈夫です…。」

 本当は、左頬がまだ痛むけど、大したことはあるまい。

 私の返答を聞いて、安心したような微笑みを浮かべた涼介先輩は、今度は理子の方へ振り返った。

「小澤さんも、大丈夫?」

 理子は、ほとんど泣きかけていた。
 顔を真っ赤にして、涙を必死でこらえているその表情は、まるでかわいらしいウサギだ。

「涼ちゃんが、『俺』って言ってるの、初めて聞いた…。」

 震える声で、そう言った。
 涼介先輩は、照れたように目を細めた。

「びっくりさせたよな。悪い悪い。」

 そう言って、理子の頭を優しくなでる。
 なんとも平和なシーンだが…いちゃつくなら、他でやってほしい。

「高井さん。」

 涼介先輩に突然名前を呼ばれて、高井先輩は、びくっと肩を震わす。

「辛いことがあったら、遠慮せずに、誰かに相談してもいいんだよ。今のを見てて分かったと思うけど、僕も、小澤さんも吉岡さんも、高井さんのことをちゃんと考えているから。だから、何かあったら、僕たちに話して。ね?」

 それまでこわばっていた高井先輩の表情が、ふっと、柔らかくなった。

 初めて見たかもしれない。
 高井先輩の、心からの笑顔。

 まぶしすぎるほど、美しい。

「すみませんでしたぁ…。ありがとうございまぁす。」

 その声は、やはり、とても甘かった。
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