雨は君に降り注ぐ
「工藤くんは、新川先輩が退学するってこと、どこで知ったの?」
そう訊ねると、工藤くんは、もともと大きい目をさらに見開いて、不思議そうに言った。
「あれ、会わなかった?新川先輩、最後の挨拶って言って、さっきここに来てたんだよ。」
嘘。
新川先輩が、ここに来ていた?
「それって、いつまで?!」
思っていたより、大きな声が出た。
工藤くんは、一瞬だけ驚いて、肩をびくっと震わせた。
「いつまでって、新川先輩のこと?」
「そう!」
「本当についさっきまでだよ。まだ、大学のどこかに入ると思う。」
工藤くんの言葉を最後まで聞く前に、私は体育館を飛び出していた。
新川先輩に、会って話がしたい。
いや、会って話をしなければいけない。
そういう感覚に囚われた。
たどってきた廊下を引き返すように進んでいくと、新川先輩の姿は、いとも簡単に見つかった。
「新川先輩!」
声を上げると、新川先輩は、驚いたように振り返った。
その目に、昨日までの冷たさは感じられなかった。
「吉岡、さん…?」
その声にも、トゲはない。
「あのっ、青葉やめるって、ほ、本当なんですかっ?」
全力で走って来たので、息が切れている。
肩で息をしながら、新川先輩に訊ねた。
「ええ、本当よ。」
新川先輩は、少し微笑んでいった。
その表情には、裏の顔など、もう無い。
「なんでっ…、やっぱり、私が原因なんですか?」
「そうね…吉岡さんも、少しは関わってるかも。」
穏やかな口調。
まるで、別人のようだ。