雨は君に降り注ぐ

「昨日は悪かったわね。痛かったでしょ。」

 新川先輩は、自分の左頬を指でさしてみせる。

「ええ、まあ…ちょっと、じゃなくて、結構痛かったです。」

 正直に答えると、新川先輩は、くすくす笑い出した。
 訳も分からずポカンとする私を見て、さらに笑う。

「吉岡さんって、ずいぶん素直なのね。」

 新川先輩の笑いは、まだ止まらないようだ。

「きっと、斉藤くんも、あなたのそういうところを好きになったんだと思うわ。」

 訳が分からなかった。

 なんでいきなり、涼介先輩の名前が出るの?
 『好き』って……何の話?

 ただただ、混乱。

「涼介先輩が、どうかしたんですか?」
「あれ、気づいてないの?」

 新川先輩は、笑いを止めて、私に向き直った。

「斉藤くん、絶対、吉岡さんのことが好きだわよ。」

 一瞬、何を言われているのか分からなかった。

 涼介先輩が、私のことを、

「す、好き…?」
「ええ。だって斉藤くん、あなたを見るときだけ、目の色が違ったわよ。」

 そんなわけない。

 涼介先輩は、理子に気があるはずじゃ、

 …いや、そうとは限らない。
 私はまだ、涼介先輩が誰を好きだとか、そういう話は1度も聞いたことがない。

 そうだ。
 涼介先輩のことを好きなのは、理子。
 私は、そこまでしか知らない。

 理子の片思い。

 今はまだ、そこまでの関係。…のはず。

 だから、涼介先輩が、私のことを好きになっている可能性だって、なくはない?!

 いや、ありえない。
 涼介先輩と理子は、遊園地デートまで済ませているのだ。

 きっともう、両想い。・・・のはず。

 いやいや、私がそう勘違いしているだけかもしれない。
 理子からは、『涼介先輩と遊びに行った』としか聞いていない。

 本当に、デートなどではなく、遊びに行っただけだったのかも…。
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