雨は君に降り注ぐ

 混乱している私を見て、新川先輩は再び笑い出す。

「大事にしてあげてね、斉藤くんのこと。彼、悪い人じゃないから。」

 よく分かっています。
 涼介先輩、めちゃくちゃいい人じゃないですか。

 でも、今、大事にしてあげてと言われても…。

「話がそれたわね。私が青葉をやめる理由、だっけ?」

 そうだ。
 すっかり本題を忘れていた。

 涼介先輩の件は気になってしょうがないが、今は、それより優先すべきことがある。

「私なりの、ケリのつけ方、かな。」

 新川先輩は、すがすがしい表情で言った。

「昨日までの私、どうかしてたな。楓ちゃんもいっぱい傷つけちゃったし、吉岡さんたちにも、ひどいことしちゃったし…。ちょっと、実家に戻って、頭冷やしてくるつもりよ。」

 新川先輩は、私と目を合わす。

「だから、あまり気にしないで。吉岡さんは、悪くないんだから。」
「本当に、そう思います?」

 気づいたら、そう訊ねていた。

「私のやったことは、やっぱり、色々な人に迷惑をかけたことだし、悪くないとはとうてい思うことがきないんです。」

 新川先輩は、しばらくキョトンとしていたが、やがて、にこやかに笑った。

「何が正しいことかなんて、誰にも分からないよ。」

 さっきも聞いたような言葉。

「でも、私は、吉岡さんがやったことは、決して悪いことではないと思うよ。」

 さっきも聞いたような言葉。

「あなたは、1人の人を助けたんだから。」

 新川先輩も、本当は、いじめなんかする人じゃない。
 本当は、すっごくいい人なのに。

 何が彼女を、あそこまで変えていたのだろう。

 そんなことを訊ねるのは、さすがに失礼か、な…。

「ありがとうございます…。新川先輩、お元気で。」
「吉岡さんもね。」

 新川先輩は、私に微笑みかけてから、背を向けた。
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