雨は君に降り注ぐ

 私は、何も言えなかった。

 父の涙を始めて見たから。
 それもあるかもしれない。でも、

 そうか、私は寂しかったのか。

 私は、ずっとずっと寂しくてしかたなかったんだ。

 母に、もっと私を見ていてほしかった。
 父に、もっと私に興味を持ってほしかった。

 私にかまって。
 私を1人にしないで。

 そうだ。
 それが、私の本心。

 私は、寂しかったんだ。

「俺が、悪いよ。」

 震える低い声で、父は言った。
 その声まで、一ノ瀬先輩にそっくりで。

「仕事を理由に、家族にちゃんと向き合おうとしなかった。結希にも美里にも、寂しい思いをさせてしまったな…。」

 父は、私の肩を優しく叩いた。

「悪かった。」

 私はまた、何も言うことができない。
 涙さえも出てこない。

「寂しかったよな…。8年前も、結希が…10歳になる日か。あの時、帰ってこれなくてごめんな。傷つけたよな…。」

 私は驚いて、口をポカンと開けていた。

「覚えてたの、そんな昔のこと…。」
「当たり前だ。大切な1人娘との約束を守れなかったんだ…。父親失格だ。」
「そ、そんな…、」

 『そんなことないよ』とは言えなかった。

 私は、8年前のことを、今だにはっきり覚えている。
 あの時ほど、傷ついたことはなかった。

「美里にも、たくさん迷惑をかけた。本当に、すまなかったと思っている…。」

 父は、母の遺影に視線を移した。

 そこには、若々しい母の笑顔。
 高校生ぐらいの頃の写真だろうか。

 似てる。

 ふと、そう思った。

 私と母、顔が、表情が、そっくりだ。
 私、母親似なんだ。

 そんな当たり前のことに、今まで気づかなかったなんて。

 …私、母の顔をまともに見たのは、今日が初めてかもしれない。

 なんて、親不孝者。
 やっぱり、私って最低。

 私は、涙の代わりに苦笑した。
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