雨は君に降り注ぐ
「結希は、美里のこと、嫌いだったろ。」
図星。
私は、母が嫌いだった。
なんで結果ばかり大事にするの。
なんで『勉強』ばかり大事にするの。
もっと私に優しくしてよ。
「うん…嫌いじゃないって言ったら、噓になるかな。」
私は、力なくうなずいた。
「そうだよな。」
父は、楽しそうに笑った。
「美里は、勉強、勉強って、結希に勉強ばかり押し付けていたもんな。嫌いになって当然だと思うよ。」
お通夜の席で笑うなんて、不謹慎かもしれない。
でも、父の笑顔は、むしろこの場に相応しく思えた。
「でもさ。」
ふいに、父が真顔になる。
「美里は、結希のことを、嫌いだったわけじゃないんだ。」
私は、今度は力強くうなずく。
「確かに、美里は少し過保護なところがあったし、結希にきつく当たったこともあった。でも、悪意があったわけじゃないんだ。」
父は、一旦言葉を切る。
「…あいつ、美里は、不器用だったんだよ。多分、結希に、どうすれば愛情が伝わるかとか、分からなかったんだと思う。」
私は、心底驚いた。
父は、仕事にしか興味のない人だと、これまでは思っていた。
でも、どうやら、違うみたいだ。
父は、私が思っていたよりもずっと、家族のことを見ている。
母や私のことを、よく理解している。
「美里は誰よりも……結希のことを愛していたよ。」
「うん。」
私は、自分にさえも聞き取れないくらい、小さな声で言った。
「分かってたよ…母さん。」