雨は君に降り注ぐ
「それでも考えずにはいられなくって、でも、考えれば考えるほど苦しくなって、どうすればいいか分からなくって…。」
一ノ瀬先輩の大きな右手が、私の頭をクシャクシャっとなでる。
「分かるよ…。僕も、そうだった。」
先輩の優しい声。
でも、どこか悲しそうな声。
…胸がしめ付けられる。
「大丈夫。君は、悪くない…。」
まるで、『自分は悪い』みたいな言い方。
先輩。
先輩はもしかして、今も苦しんでいるんじゃないですか…?
「先輩、本当に、風邪ひいちゃいます…。」
私の足元に落ちている一ノ瀬先輩の傘を見ながら、私は言った。
雨は、相変わらず止む気配を見せない。
私も先輩も、まるでシャワーを浴びたかのようにずぶ濡れだった。
私の頬を流れるそれは、雨なのか涙なのか、自分でも分からない。
「うん、そうだね…。」
それでも、一ノ瀬先輩は、私を抱きしめたまま放さなかった。
私の腕も、先輩の背中に回したままだ。
ずっとこのままでいたい。
そう思った。
風邪をひこうが何だろうが、このままずっと、先輩のぬくもりを感じていたい。
と、先輩の腕が突然、私の体から離れた。
私の体温が、急速に下がり始める。
先輩が、私の左頬に触れた。
すでに涙は止まっていたが、私の顔は、雨によって濡らされていた。
沈黙が流れた。
先輩は、私の頬に触れたまま、立ち尽くしている。
そのくりくりの目には、私の顔が映っていた。
「…先輩?」
沈黙に耐えられなくなって、私が口を開いた、
その瞬間、
一ノ瀬先輩と、
私の、
唇が重なった。