雨は君に降り注ぐ

 涼介先輩の妹さん、瑞葵さんが、一ノ瀬先輩の元彼女さんだった。
 そして、一ノ瀬先輩は、彼女さんとお母さんを、同じ年の同じ日に亡くしている。

 …こんな偶然、あるんだろうか?

 一ノ瀬先輩は、1度に2人も、大切な人を失っている。

 どんなに苦しかったんだろう。
 どんなに悲しかったんだろう。

 …1週間前の夜のあれ、あれは一体、何だったんだろう。

 キス。
 一ノ瀬先輩の唇の感触が、まだ、私の唇に残っている。

 すっごく優しいキスだった。

 一ノ瀬先輩は、一体何を考えてキスなんか…。

 彼女さんだった瑞葵さんは、3年前に亡くなっているわけだから、多分一ノ瀬先輩は、今は完全にフリー。

 独り身の男性と女性がキスするだなんて、やっぱり考えられるのは、
 …告白?

 いやいや私、思い直せ。
 期待なんかしちゃダメだ。

 一ノ瀬先輩はきっと、泣きじゃくる私を見て、なぐさめてあげようと思ってキスを…、

 いやいや、なぐさめる目的でキスなんてするか?!
 普通、ハグとか、頭ポンポンとかでしょ?!

 やっぱり、一ノ瀬先輩、私のこと、

 私、最近自意識過剰だ。
 そんなわけないじゃないか。

 私なんかが、一ノ瀬先輩に届くはずなんて、絶対にない。

 それでも、今は彼女さんがいないなら、私にもチャンスはある、かな…?

 それとも一ノ瀬先輩は、今でもなお、瑞葵さんのことを好きなんですか?

 先輩のたまに見せる、胸がしめ付けられるくらいに寂しそうなあの笑顔は、その遠い目の先に見えているのは、やっぱり瑞葵さんなんですか?

 3年たった今でも忘れられないくらい、瑞葵さんのことを、愛していた、
 いや、

 今でも、愛しているんですよね?
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