雨は君に降り注ぐ

 冷たい風が首筋にかかる。
 私は思わず、体を震わせた。

 残暑はすっかりなくなり、外はすっかり秋めいている。

 もうそろそろ、半そでシャツの出番は終わり。
 カーディガンを出さなくては。

 もうすぐ、10月。

 私のストーキングは、相変わらず続いていた。

 帰り道に視線を感じることはもちろん、毎日テーブルの上には茶色い封筒が。
 中身は、ワープロ文字でびっしりの便せんと、私の写真が数枚。

 手紙の内容も、日に日にエスカレートしている。

『好きだよ。俺と1つになろうよ。』
『いつも君を見てる。いつもいつもいつもいつも今も。』
『愛死てる。』
『昨日の寝顔は可愛かったな。今日の朝食はカップ麺だったんだね。』

 生活すべてを監視されている。
 手紙の内容が、その証拠だ。

 もう、いつ殺されてもおかしくないんじゃないか。

 それでも、私に危機感はなかった。

 つけまわしたり手紙を送ったり。
 確かにものすごく気味が悪いが、直接、肉体的な攻撃はされていない。

 この男は、私に危害を加えてはこない。

 根拠のない自信があった。

 それでも、怖いものは怖い。
 いつ、どこで、何を見られているか、四六時中ビクビクしていないといけない。

 肉体的な攻撃はないものの、精神的な被害が大きすぎる。

 何度も、通報しようと思った。
 警察に相談して、犯人が捕まって、早く楽になりたい。

 それでも、できなかった。

 もし、通報するところを、黒フードの男に見られていたら。
 そしてその男が、手紙に書いてあった通り、写真に写っていた誰かを殺してしまったら。

 私のせいで、理子や、工藤くんや、涼介先輩や、
 一ノ瀬先輩が、
 死んでしまったら。

 そう思うとどうしても、110番を呼ぶことはためらわれたのだ。
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