雨は君に降り注ぐ

「結希、最近どうしたの?」

 その声で、私は我に返った。
 遅れて、声のした方を見ると、理子が心配そうな面持ちで、廊下に突っ立っていた。

「最近、元気ないって言うか…。」

 理子は、私に近づき、顔をのぞき込む。

「今だって、さっきの講義だって、ずっとぼ~っとしてるし。」

 彼女は、私と目を合わせた。
 そして、じっと見つめる。
 私は、思わず目をそらしてしまった。

「ねえ、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。」

 反射的に、そう返していた。

 大丈夫なんかじゃない。
 むしろ、助けてほしいくらいだ。

 でも、こんなこと、…言えるわけがない。

「大丈夫。本当に平気だから。だから、心配しないで。」

 早口でそう言った。
 理子は、どこか残念そうに目をそらす。

「うち、いつでも相談に乗るのに…。」

 理子が小さくつぶやく。

「えっ?」
「うちだけじゃないよ。結希の様子がおかしいこと、みんな気づいてるよ?」

 私は、思わずうつむいた。

「特に工藤くんなんて、めちゃくちゃ心配してるよ。」

 私はさらにうなだれる。

「本当にどうしようもない時は、いつでも頼っていいんだよ。無理にとは言わないけど…。話、ちゃんと聞くからさ。うちも、工藤くんも、涼ちゃんも。」

 何も答えられない。
 皆の優しさはあまりにも温かすぎて、私にはもったいない。

 いつまでもうつむいている私を見て、理子は寂しそうに微笑んだ。

「今日、先に帰るね。バイトあるから…。今日はサークル休むって、涼ちゃんに言っておいて。」

 そう言うと、彼女は静かに私の前から去っていった。
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