雨は君に降り注ぐ

 1人とぼとぼと、大学の渡り廊下を歩く。
 廊下は、講義の終わったばかりの学生の波で、ごったがえしていた。

 そんな中私は、見覚えのある顔を見つけた。

 一ノ瀬先輩。

 私の脳裏に、あの時の先輩の笑みがよみがえる。
 皮肉めいた、意地悪な笑み。

 私は、一ノ瀬先輩に話したいことがあった。

 私は、一ノ瀬先輩を怒らせてしまった。
 それは多分、彼女さんのことについて詮索したから。
 だから、嫌われた。

 それならせめて、一言謝りたい。

 嫌われてしまったことは、過ぎた話。
 もうどうしようもない。

 それでも、一言、一言だけでいいから、謝りたい。

 そう思い、少し離れた一ノ瀬先輩に声をかけようとした、その時、

 先輩と、目が合った。

 お互い、一瞬固まる。
 先輩は、少し驚いた表情で、私を見つめている。

 次の瞬間、先輩は、私に背を向けて、早足で廊下を進みはじめた。

 あっという間も無かった。

 先輩は、学生たちの波に隠れて、完全に見えなくなった。
 慌てて追いかけたが、やはり見つからなかった。

 …今のは一体。

 一ノ瀬先輩は、私に気づいたから、逃げるように去っていった。
 それは、つまり、

 私、避けられてる?
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