雨は君に降り注ぐ

 夜。
 青葉大学からの、帰り。

 ため息をつきながら、改札を抜ける。
 その瞬間、突き刺さるような、トゲのある視線を感じた。

 別に、驚きなどしない。
 怖がりもしないし、走って逃げようとも思わない。

 もう慣れてしまった。
 この、視線を感じ続ける毎日に。

 多分今日も、帰宅すれば、白テーブルの上に手紙が置いてある。

 私はあきらめていた。

 もう、何をどうやったって、このストーカーから逃れることはできない。

 ならいっそのこと、受け入れてしまおう。
 この異常な毎日を、日常にしてしまおう。

 そうしているうちに、いつの間にか気づいたら、ストーカーは終わっていましたなんて都合のいいことが、もしかしたら、あるかもしれないから…。

 と、着信メロディーが、パーカーのポケットから聞こえてきた。

 すぐにスマホを手に取り、液晶を確認する。

「非通知…。」

 誰からかかって来たのか。
 それは、なんとなくの予想はついた。

 私は迷うことなく、通話ボタンをタップした。

 この際、はっきり言ってしまおう。
 もうこんなことはやめてくれと。

『…結希?』

 聞こえてきたのは、機械のような声だった。
 『ボイスチェンジャー』という言葉が、とっさに浮かぶ。

「はい、そうですが。」

 私は、必死に冷静を装って答えた。

「失礼ですが、どちら様でしょう?」
『俺のこと、覚えてないの?』
「どちら様でしょう?」

 心臓がうるさい。
 手汗もひどい。

 それでも、冷静に、冷静に。
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