雨は君に降り注ぐ
「あなたが、あの手紙送ってきた人、ですね…?」
『わあ、正解!ちゃんと読んでくれた?』
機械を通している声とはいえ、私はその声に、聞き覚えがあるような気がした。
声の雰囲気とか、口調とか、
この人、もしかして…。
『俺からの愛、ちゃんと受け取ってくれたよね?』
誰だ。
私は確かに、この声を、口調を、よく知っている。
でも思い出せない。
誰だ、誰、誰、誰、誰…?
「もうこんなこと、やめてもらえませんか?」
『こんなことって?』
「追いかけまわしたり、家に侵入したり、脅したりとか、です。」
そう言った途端、電話の奥の空気が変わった気がした。
『なんで?俺は、君のためを思ってやってるんだけど?』
機械の合成音は、どうやら怒っているようだった。
『君だって、俺のことを愛してるんでしょ?!』
「そんなわけないじゃないですか!」
私はほとんど叫んでいた。
道行く人が、私を怪訝な目でにらむ。
それにはかまわず、私は続けた。
「私、好きな人がいるんです!」
電話の主が、一瞬息をのむ。
その次の瞬間、
『はあ?!誰だよそいつ!』
耳をつんざくほどの怒声が聞こえて、私は思わずスマホから耳を話した。
『結希が俺以外の奴を好きになっていいと思ってんのかよ?!』
「そんなの私の勝手でしょ?!」
『いや、結希が好きなのは俺なんだよ!』
…この人、すごくおかしい。
なんと表現していいのか分からないが、おかしい。
まるで、糸がほつれて絡まってしまった、目の取れた人形…?
「違います!私が、私が好きなのはっ!」
一瞬ためらう。
でも、言うしかない。
「私の好きな人は、し、汐暖さんなんです!」