雨は君に降り注ぐ

「今、どこからかけているんですか?」

 何を聞いても無駄。
 そう思っているのに、質問してしまう。

『うん?今…、』

 視線。

 するどい視線。
 トゲのある視線。

 悪意のある視線が、私の背中に突き刺さった。

『結希の、すぐ後ろ。』

 足元から、冷たいものが這い上がってくるような感覚。

 とっさに振り返れはしなかった。
 私は、ゆっくり時間をかけて、首だけ後ろを振り返った。

 そこに、いた。

 私から、少し離れたところに位置するファミレス。
 その前に、1人たたずむ影。

 黒フードの男。

 夜の闇と、そのフードのせいで、顔は判別できない。
 フードごしに、目が合ったような気がした。

 誰だ。

 身長は、距離が離れすぎていてよく分からないが、おそらく180cmはある。
 体格は、がっしり。
 足が長く、肩幅が広い。

 分かるのはその位だ。

 誰だ。

 高身長で、足が長くて、肩幅が広い。
 そんな人、たくさんいる。

 やはり、顔が分からないと…。

『あ、俺のこと見つけた?』

 合成音が聞こえた。
 私は、震える声で答える。

「…ファミレスの、前。」
『正解!ねえ、これから2人でどこかへ行こうよ。愛し合う2人がやっと出会えたんだからさ。』

 黒フードの男からの視線は、確かに悪意の塊だった。
 それなのに、口では『愛してる』だの『好き』だの言っている。

 やっぱりおかしい。

 この男のペースに乗せられてはいけない。
 本能がそう訴えていた。

「…行かない。」
『なんで?俺、結希のこと、心から愛してるのに。』
「嘘。」
『嘘じゃないさ。』
「私はあなたのこと、大っ嫌い!」

 『大嫌い』はまずかっただろうか。
 そう考えるが、私の口は止まらなかった。

「愛してなんかいない!全部全部あなたの思い込みです!だからもう…だからもう、私に関わらないでよ!」
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