雨は君に降り注ぐ
『何言ってんの?』
機械の声のトーンが、突然変わった。
『結希は俺を愛してるよ?俺も結希を愛してる。』
「だからそれは、全部あなたの、」
『結希、愛してる。』
合成音は、抑揚1つない。
それが、やけに不気味に思えた。
『結希、愛してる。愛してるよ。愛してる。結希、結希、結希。愛してるから。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるよ愛してるから愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる、』
「嫌!」
思わず、通話を切った。
「な、何なの…。」
はっとして、ファミレスのある方に目をやる。
そこに、先程までいたはずの黒い影は、跡形もなくいなくなっていた。
それでもまだ、突き刺さるような視線は感じる。
どこだ。
どこにいる。
どこから見ている。
探そうと視線をめぐらしてから、思いとどまった。
探し出してどうする。
近づいて顔を確認する?
ストーキングをやめるよう説得する?
それ以前に、襲われたらどうする。
相手は男。
力では敵わない。
それに、あの男は、私のすべてを知っているらしい。
住所、電話番号、交友関係、何から何まで…。
無理だ。
私には、どうすることもできない。
どうせ、住所も知られているんだから、走って逃げても意味がない。
私のすべては、彼に握られているのだ。
嫌でも受け入れるしかない。
この状況を。
そう悟った私は、通報することも、誰かに助けを求めることも無く、いつも通り普通に、アパートへと足を進めたのだった。