雨は君に降り注ぐ
「一ノ瀬が、どうかした?」
相変わらずの、優しさの入り混じった柔らかい声。
涼介先輩って、全てが完璧だ。
「…あの実は、私、一ノ瀬先輩のことを、もっと深くまで知りたいんです。」
涼介先輩が苦笑する。
「その言い方だと、なんだか誤解を招きそうだけど…具体的に、何を知りたいの?」
「一ノ瀬先輩の…過去のこととか、です。」
涼介先輩はもう1度、苦笑。
「ずいぶんざっくりだね。でも、なんで僕に?本人に聞いた方が早いと思うよ?」
私は一瞬、言葉に詰まる。
「実は私、一ノ瀬先輩に、き、嫌われているみたいなんです…。」
結局、正直に言った。
自分で『嫌われている』と口にすると、改めて落ち込む。
そうだ、私、一ノ瀬先輩に嫌われているんだ…。
「え!そうなの?」
涼介先輩は、大きな目を見開いて言った。
「とてもそうは見えないけど…。むしろ、」
「むしろ…?」
「むしろ一ノ瀬は、吉岡さんに恋をしているように見えるよ?」
私は、愕然とした。
「まああくまで、僕から見たらって話だけどね。」
言葉が出なかった。
こ、こ、恋、恋を、恋をしている?!
一ノ瀬先輩が?!
私に?!
あくまで、涼介先輩から見たらって話だけど、少なくとも、涼介先輩にはそう見えている、ということだ。
一ノ瀬先輩が、私に恋をしているように見えている、ということだ。
驚きのあまり、口を半開きにポカンとしている私を見て、涼介先輩は楽しそうに笑った。
「ごめんよ、驚かせちゃった?」
私は、小さくうなずいた。
「…ごめんよ、本当に、驚かせるつもりはなかったんだ。」
涼介先輩はそういうと、身を乗り出し手を伸ばして、私の頭を優しくなでた。
一ノ瀬先輩よりはるかに丁寧で、優しいなで方。
私はその時初めて、自分が泣いていることに気づいた。