雨は君に降り注ぐ
私は、手の甲で涙をぬぐった。
でも、涙は止まってくれない。
次から次へと溢れてきて、私の手はあっという間にびしょびしょになった。
「ごめんよ。僕、無神経なこと言っちゃったな。」
涼介先輩は、『ごめんよ』を連発させながら、私にハンカチを渡す。
緑のチェックのハンカチ。
私は遠慮なく受け取り、両目に押し当てた。
私、なんで泣いてるんだろ。
一ノ瀬先輩が、私に恋をしている……ように、涼介先輩に見えている。
それは、すごく嬉しいことじゃないか。
泣ける要素なんてどこにも無い。
なのに、なんで。
私、なんで泣いてるんだろ。
3分ほど経つと、だんだん涙は乾いてきた。
私は、涼介先輩のハンカチを顔から離し、彼の方へ向き直った。
「すみません…これ、洗濯してから返しますね。」
涼介先輩は、困ったように笑った。
「気を使わなくていいよ。泣かせちゃったの、僕なんだし。」
「いえ。ちゃんと洗って、アイロンかけてから返します。」
「ア、アイロン…。」
涼介先輩は、今度は、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、お願いしようかな。」
思わずドキリとさせられる、宇宙を滅ぼせそうなキラースマイル。
…理子、本当にごめん。
「話を戻そうか。一ノ瀬の過去…だっけ?」
そうそう、そうだった。
私は何かに気を取られると、話の本題を忘れるときがしょっちゅうある。
「はい、そうです。その、具体的には…瑞葵さんのこととか。」
「やっぱり気になる?…元カノのこと。」
「…はい。」
亡くなっている妹さんのことについて聞くのは、なんだか申し訳ない気がする。
それでも私は、正直にうなずいた。
一ノ瀬先輩のことを、知りたいから。