雨は君に降り注ぐ
「瑞葵は…かわいくて、おもしろい子だったよ。」
涼介先輩は、遠い目をして言った。
ありえないくらいイケメンな涼介先輩が『かわいい』というんだから、相当な美少女だったんだろう。
「そう、吉岡さんに似てるかな。」
「えっ?」
思わず、まぬけな声が飛び出る。
「に、似てるって、」
「うん。似てる。性格もそうだけど、顔なんてそっくりだよ。」
瑞葵さんに、似てる…。
私は前に、一ノ瀬先輩に言われた言葉を思い返した。
『うん。僕の古い友人に、そっくり。』
『君は、僕の昔の友人に、本当によく似てる。』
あれはもしかして、瑞葵さんのことだったんじゃないか?
「あの、涼介先輩。瑞葵さんの写真って、見せてもらえたり、しませんか?」
「え?いいけど。」
涼介先輩は、椅子の背もたれに掛けていたパーカーのポケットからスマホを取り出して、しばらく操作する。
「あった、この子。」
私にスマホをさし出した。
椅子から少し腰を浮かせて、私はその液晶をのぞき込んだ。
「ね、そっくりでしょ?」
私はしばし絶句した。
こんなの、『そっくり』どころの話ではない。
まるで生き写しだ。
写真の中の瑞葵さんは、どこかのおしゃれなカフェで、コーヒーカップを手に笑っていた。
その顔は、『私』だった。
そう思ってしまうくらい、私にそっくりな顔だった。
私の頭に、『ドッペルゲンガー』という言葉が浮かぶ。
「そ、そっくり、です…。」
「でしょ?」
涼介先輩は、楽しそうに笑う。
「だからかな…。吉岡さんを始めて見かけた時、なんだかこの人、他人じゃないっていうか、親近感を感じたんだよね。」
柔らかい声で、そう言った。