雨は君に降り注ぐ

 そして、瑞葵さんが高校1年生、つまり一ノ瀬先輩が2年の時に、2人は交際を始めた。

 告白はもちろん瑞葵さんから。
 一ノ瀬先輩は彼女の申し出を快諾し、カップルが誕生したのだという。

「2人は相当仲が良かった…らしいよ。」

 涼介先輩は、目を細めて言った。

「…らしい?」
「実は僕も、詳しいことは知らないんだ。一ノ瀬とは同級生だったから、一ノ瀬から近況を聞くことはあったけど、瑞葵はなかなか僕と話してくれなかったからね。」
「え、妹さん、ですよね…?」

 涼介先輩は、さらに目を細める。

「僕は多分、瑞葵から嫌われていたんだと思う。」

 私は慌てて目をふせた。

 …まずいことを聞いてしまった。

 兄妹だからと言って、仲がいいとは限らない。
 それなのに、私は、浅はかな…。

「瑞葵は、僕と目が合うとすぐそらすし、一ノ瀬と付き合い始めたってことも、なかなか教えてくれなかった。」

 一ノ瀬先輩と同級生、ということは、涼介先輩も、雪立高校の出身なのか。
 頭いいんだなあ…。

 なんて、そんなことを考えていい状況ではないだろう。

「2人の交際は順調だった…らしいよ。でもそこで、ある事件が起きた。」

 それは、2人が付き合い始めて、1年程経った頃。

 一ノ瀬先輩の母親が、胃癌であることが判明した。

 癌が見つかった時には、ほとんど手遅れだった。
 先輩のお母さんは、なかなかに短い余命を告げられた。

 母が手遅れな状況になってしまったのは、自分のせいだ。

 一ノ瀬先輩は、そうやって自分を責めた。

 彼はだんだんに、精神を病んでいった…。

 そんな先輩を見ていられなくなって、瑞葵さんは、彼にある提案をした。

『ねえ、今度、気分転換にデートしない?』
< 215 / 232 >

この作品をシェア

pagetop