雨は君に降り注ぐ
そして、瑞葵さんが高校1年生、つまり一ノ瀬先輩が2年の時に、2人は交際を始めた。
告白はもちろん瑞葵さんから。
一ノ瀬先輩は彼女の申し出を快諾し、カップルが誕生したのだという。
「2人は相当仲が良かった…らしいよ。」
涼介先輩は、目を細めて言った。
「…らしい?」
「実は僕も、詳しいことは知らないんだ。一ノ瀬とは同級生だったから、一ノ瀬から近況を聞くことはあったけど、瑞葵はなかなか僕と話してくれなかったからね。」
「え、妹さん、ですよね…?」
涼介先輩は、さらに目を細める。
「僕は多分、瑞葵から嫌われていたんだと思う。」
私は慌てて目をふせた。
…まずいことを聞いてしまった。
兄妹だからと言って、仲がいいとは限らない。
それなのに、私は、浅はかな…。
「瑞葵は、僕と目が合うとすぐそらすし、一ノ瀬と付き合い始めたってことも、なかなか教えてくれなかった。」
一ノ瀬先輩と同級生、ということは、涼介先輩も、雪立高校の出身なのか。
頭いいんだなあ…。
なんて、そんなことを考えていい状況ではないだろう。
「2人の交際は順調だった…らしいよ。でもそこで、ある事件が起きた。」
それは、2人が付き合い始めて、1年程経った頃。
一ノ瀬先輩の母親が、胃癌であることが判明した。
癌が見つかった時には、ほとんど手遅れだった。
先輩のお母さんは、なかなかに短い余命を告げられた。
母が手遅れな状況になってしまったのは、自分のせいだ。
一ノ瀬先輩は、そうやって自分を責めた。
彼はだんだんに、精神を病んでいった…。
そんな先輩を見ていられなくなって、瑞葵さんは、彼にある提案をした。
『ねえ、今度、気分転換にデートしない?』