雨は君に降り注ぐ

 ちょうど、夏休みも近い時期だった。
 母の余命も、その時はまだ充分にあった。

 一ノ瀬先輩は、瑞葵さんの提案を承諾した。

 そして2人で、計画を立てた。

 デート会場は、近所にある大きな神社。
 ちょうど、夏祭りと花火大会が行われる日。
 待ち合わせ場所は、その神社の目の前、大きな赤い鳥居のあたりにしよう。

 計画を立てている間の一ノ瀬先輩の目は、キラキラと輝いていた。

 …そして、夏祭り当日。

 瑞葵さんは、はりきって支度をしていた。

 ナチュラルメイクを施し、浴衣を着付け、髪の毛をきれいなお団子にした瑞葵さんは、それはそれは美しかったそう。

 相当ご機嫌だった瑞葵さんは、珍しく、自ら涼介先輩に声をかけた。

『ねえ、どう?可愛く見えるかな?』
『可愛いさ。とってもきれいだよ、瑞葵。』

 瑞葵さんは、照れ隠しのように目をそらした。

『じゃあね、お兄ちゃん。行ってくる。』

 午後5時半。

 瑞葵さんは、ひらひらと手を振ると、斉藤家を後にした。

 涼介先輩が瑞葵さんを見るのは、それが最後になったという…。
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