雨は君に降り注ぐ
しばらくたって、午後7時。
涼介先輩の携帯に、一ノ瀬先輩から連絡が入った。
彼は、涙まじりの声で、こう言った。
『涼介さん、ぼ、僕の、母、母が、死に、亡くなりました…。』
詳しく話を聞くと、一ノ瀬先輩の母親は、その日の夕方から突然容態が急変し、吐血したという。
その場に居合わせた医師が対応するも、一ノ瀬先輩の母親の具合はどんどん悪化していき、ついには、力尽きた。
一ノ瀬先輩の母親は、彼の目の前で息を引き取った。
「僕は、何も言ってやれなかった…。」
涼介先輩は、私の目の前で、がっくりとうなだれた。
私がもしも涼介先輩と同じ立場になっても、きっと何も言えないだろう。
目の前で、愛する人を失った一ノ瀬先輩。
この上ないくらいショックを受け、悲しいだろうし、苦しいだろう。
『大丈夫?』ではおかしいし、『ご愁傷さまです。』も違う気がする。
結局涼介先輩は、『ご冥福をお祈りします。』と言って通話を終わらせたそうだ。
そして、一ノ瀬先輩の電話から、さらに30分後。
午後7時半。
涼介先輩のスマホが、再び震えた。
液晶には、『母』の文字。
根拠のない、嫌な予感がした。
『はい。』
『…涼介!』
聞こえてきたのは、泣きじゃくる母の声だった。
『瑞葵が、瑞葵が…!し、し、死…、』
母の言葉に、涼介先輩はスマホを落とした。
落とした事実にも気づかず、涼介先輩は、しばらく呆然としていた。
瑞葵が、死んだ。
僕の大事な瑞葵が。
かわいい妹が。
瑞葵が、死んだ。